よろづやアンテナ

ITから生活の参考になる情報を備忘録代わりに残していきます

「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」 会計をやさしく学べる良書

f:id:merrywhite:20211010135937j:plain


多くのサラリーマンは会計とは無縁の仕事をしている場合が多いと思います。私も本業はエンジニアですが、企業の会計は会計士がやるものだくらいにしか考えていませんでした。


その為、会計は無縁のものと思っていました。実は本書を手にしたのはブックオフで格安だった事もありますが、そのタイトルに惹かれた為です。


「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」 


安い大衆向けの餃子屋と、高級なフレンチでは、どちらが儲かるのか気になると思います。実は本書には、この回答は書かれていません。ただし、その稼ぎのしくみが書かれています。そして、そのしくみが経営にとってどう影響するかが分かりやすく、ストーリーだてて書かれています。


まず、本の説明を簡単にすると、


ある日、中堅アパレルメーカー「ハンナ」のデザイナー由紀は、突然、父の遺言により倒産寸前の会社社長に就任する事になります。しかし、経営に経験もなく、興味もない由紀は、どうしていいかわからず、時間だけが過ぎ去っていきます。


その中、「ハンナ」が借入しているメインバンクの文京銀行本駒込支店長高木から、「1年経っても業績が改善しなければ融資を引き上げる」と通告されてしまいます。しかも、社員の「リストラ」を要求されます。
由紀は途方に暮れるのですが、母の紹介で会計のプロであり、実績のある安曇から指南を受けながら、つぎつぎと襲いかかる困難に立ち向かう・・・というストーリーです。


実際に読み進めていくと、専門用語が出てきますので、解説部分は多少難しく感じますが、何度も読めば理解できると思います。そして、この本を読んで勉強になった部分をいくつか紹介したいと思います。


■大トロはなぜ儲からないか


本書の中で、 安曇から「大トロは儲かると思うか?」という質問を受けます。多くの人は、大トロは看板メニューになるし、価格も高いから儲かると思うかもしれません。


単純に考えれば、利益は高いです。しかし、ここにも会計のトリックがあります。大トロの対比として、提供価格の安い「コハダ」が挙げられていますが、実際は、「大トロよりもこはだの方が儲かる」と書かれています。


これにはきちんと理由が書かれています。大トロは利益は高いが、その分、原価も高いし、高価な分、注文が中々でません。しかし、「コハダ」は利益こそ低いものの、原価も安く、お客さんも注文しやすいので、よく出ます。


ここに答えがあります。


本書の内容を引用すると、

【一貫辺りの利益(売値-原価)】
コハダ:50円(100円-50円)
大トロ:250円(500円-250円)

次に、一日にこれくらい売れるとします。そして月に換算すると以下の利益が見込めます。

■コハダ
100貫/1日
2500貫/1月(25日計算)
売り上げ:2500貫×50円=12万5千円

■大トロ
8貫/1日
200貫/1月(25日計算)
売り上げ:200貫×50円=5万円
 

つまり、「コハダ」の方が儲かるという話ですね。実は、この話、輸入ビジネスを実践している人なら、ピンと来るのではないでしょうか?
 


大トロは船原式、コハダは川下式です。価格差が大きい商品を狙う方が、「大トロ」。そして、薄利多売を狙うのが「コハダ」。


川下さんの動画でも、輸入ビジネスにおける薄利多売のメリットを商品の回転数で表現しています。価格差がある商品は、確かに一回の利益は高いのですが、その分、商品の仕入れ価格もあがりやすく、また、数を売れないので在庫として保持する期間が長くなる傾向があります。


逆に、薄利多売系の商品は、価格も安く、売れやすい為、商品の回転が速いのです。


これって、実はビジネスだけで言われる言葉ではない事にも気づきます。そうです、FXなどの投資でも使われます。それは、塩漬け状態の資金です。


自分の想定と逆に相場が動き、マイナスが膨らむことがあります。その場合、損失を出すのが嫌なので、保持し続ける人がいます。その場合、本来使えるはずの資金が使えないので、いざチャンスがきても、エントリーできない場合があります。


まさに、機会損失です。この本の後半にも、経営の機会損失についか書かれています。要は、経営に重要なのは、資金をうまく回す方法です。確かに、売れるのであれば、大トロを扱うのもいいと思います。ただし、経営的に、先を想定しやすいのは、ここで言う「コハダ」です。


なぜなら、在庫の消費が早いので、資金繰りもよく(現金化)、次回の仕入れ数も想定しやすいからです。逆に、売り上げ数が少ないものは、仕入れ側からすると、数を慎重に仕入れると思います。


分かりやすい例を出します。

商品A:iphoneのカバー
原価500円:売上1000円
販売実績(先月):100個
利益:5万円

商品B:ディズニーのアンティー
原価5万円:売上8万円
販売実績(先月):1個
利益:3万円

商品Bの方が少ない労力で、一気に稼げますが、売れる数が少ない為、在庫リスクも高く、確実に毎月売れるとは言い切れません。しかし、商品Aは、ある程度数が売れるのが分かっているのと、原価自体も安いので、商品の「仕入れ⇒売却」までの流れが読みやすい。


さらに、すぐに売れるという事は、現金化も早いので、キャッシュフローが明確であるとも言えるのです。


「B to B」のビジネスであれば、商品Bを扱う方が効率がいいですが、「C to C」のビジネスであれば、Aの商品の方が効率がいいのです。まさに、Aはユニクロ、Bはマンションを売るデベロッパなどとでも言えますでしょうか。


このように、商品で何を売るかというのも、経営においてはとても重要な判断が要求されます。


例えば、ちょっと飛躍して輸入ビジネスの話をすれば、人気商品は売れるが、ライバルも多い為、すぐに飽和しやすくなります。逆に、マイナー商品であれば、数は出ないが、ロングテールで売れ続けます。


商品の癖を知る事も、経営を知るうえで、大切な要素であるとも言えます。これらはすべて戦略です。
 

長くなりましたので、本書にあるフレンチ VS 餃子対決は次回に書きたいと思います。
 

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか? (PHP文庫)